2026年4月定例セミナー「わたしの将棋上達法―制約条件下の戦略設計」 中小企業診断士 宮田浩幸さん

4月のKCG定例セミナーの講師は、中小企業診断士の宮田浩幸(みやた ひろゆき)さんです。
大手ドラッグストアで店長として働きながら、副業として能登半島地震の被災事業者支援にも奔走する宮田さんが、
昨年度、石川県の将棋B級戦大会で4回優勝を果たしました。
多忙を極める日々の中でどうやって成果を出したのか。その問いへの答えが、この日のセミナーで語られました。
参加できなかった皆さまにも、その熱量の一端をお届けします。

 

今の宮田さん——三つを並走させる日々

宮田さんの現在は、三本の軸で成り立っています。
一つ目は大手ドラッグストアの店長という本業。
二つ目は中小企業診断士として副業で取り組む能登半島地震の事業者支援。
そして三つ目が、アマチュア2段・B級戦4回優勝という将棋です。

店長業務だけでも週5日フル稼働。そこに被災地支援が加わり、実質「週7日稼働」に近い状態が続いています。
それでも宮田さんは将棋を手放しませんでした。
「将棋の時間は、慌ただしい日常の中で自分の思考を整えるための時間でもある。」
そう語る宮田さんにとって、盤の前に座ることは単なる趣味ではなく、自分を保つための習慣でもあるようです。

では、なぜ今の宮田さんがこうした三本柱の生き方にたどり着いたのか。その答えは、宮田さんのこれまでの歩みの中にあります。

 

本と将棋が育ててくれた少年時代

宮田さんの原点は、石川県内の小さな町で本に囲まれて育った少年時代にあります。
小説を読みながら育った宮田さんは、大学の文学部へ進学。
卒業後は「本が好きだから」と地元の書店チェーンへ就職します。
本を売ることが仕事になった日々の中で、さらに深く考える習慣が培われていきました。

将棋との出会いはさらに幼い頃に遡ります。
小学校2年生のとき、野球の少年団の合宿で将棋を覚えた宮田さんは、すぐにのめり込み、
小中学校では「学校で一番強い子」として知られていました。
しかし高校に入ると将棋仲間がいなくなり、しばらく盤から離れます。
本を読み、深く考える習慣だけが、静かに積み重なっていきました。

将棋が再び宮田さんの前に戻ってきたのは、30歳で結婚したときのこと。
妻の父が地元の将棋愛好会の事務局を担うほどの将棋好きで、その縁で約15年ぶりに盤に向かいました。
10代の頃とは違い、人生経験を積んだ30代の目には、将棋の奥深さがまるで違って見えたはずです。

 

倒産・転職・資格——制約が人をつくる

書店チェーンに勤め、販売の現場で力をつけていた宮田さんに、会社から「販売士2級」という小売業の資格取得の打診がありました。
資格の面白さに目覚めた矢先、勤め先が倒産。地元のドラッグストアへ転職することになります。

新たな職場でも力をつけながら、さらに「販売士1級」(小売・流通分野の最高位資格)の取得へと歩みを進めます。
やがて勤務先の地元ドラッグストアが大手ドラッグストアチェーンに吸収され、
宮田さんは自然とその大手チェーンの店長へとキャリアを継続しました。
「自分でルートを選んだというより、流れの中で気づいたらここにいた」
——そんな謙虚な言葉の裏に、どんな状況でも腐らず力を蓄えてきた宮田さんの姿勢が透けて見えます。

さらに勤務先の上司から「販売士1級を持っているなら、中小企業診断士も目指してみれば」と背中を押され、
本業の傍ら猛勉強の末、2023年に中小企業診断士として登録を果たしました。
倒産も転職も吸収合併も、すべてが次へのステップになっていきます。
宮田さんのキャリアそのものが、すでに「制約条件下の戦略設計」の実践でした。

 

 

能登半島地震——地元への思い

中小企業診断士として登録を果たした直後の2024年1月、能登半島地震が発生しました。
石川県で生まれ育ち、長年この地で暮らしてきた宮田さんにとって、故郷に近い場所が大きな被害を受けたその出来事は、
単なる「社会的事象」ではありませんでした。
「診断士としてはまだ駆け出しで、何ができるかもわからなかった。
でも、だからといって動かない理由にはなりませんでした。」

倒産・転職・吸収合併と、さまざまな「組織の危機」を間近で見てきた宮田さんだからこそ、
被災した事業者の痛みや再建への難しさに寄り添える部分があったのではないでしょうか。
「駆け出し」という制約を言い訳にしない姿勢は、やはり将棋が教えてきたあの言葉と重なります。
——「知らなかった」という言い訳は、将棋の盤の前では通用しない、と。

 

将棋という「鏡」——現在を支える思想

宮田さんが将棋を続ける理由は、単なる趣味を超えたところにあります。
将棋は「二人・零和・有限・確定・完全情報」という特性を持つゲームです。
「二人」は責任の分散ができないこと、
「零和」は自分の得が相手の損であること、
「有限」は先延ばしができないこと、
「確定」は偶然に頼れないこと、
「完全情報」は「知らなかった」という言い訳が通用しないこと
を意味します。

「だから将棋は、言い訳のきかない意思決定ゲームなんです。」
この言葉に、会場が静かにざわめきました。
店長として、診断士として、日々無数の意思決定を迫られる宮田さんにとって、将棋の盤は鏡のような存在です。
「将棋をビジネスと重ね合わせて聞いていたら、耳が痛くなってきました(笑)」という参加者の声が印象的でした。

宮田さんが実践してきた将棋の勉強法も、この思想と一体です。
基本の勉強法5つ(詰将棋・定跡研究・棋譜並べ・対局・感想戦)の中から、時間的制約を踏まえて「対局」と「AI解析による感想戦」に絞り込む。
振り返りは「1局から1つだけ、次に繰り返さない失敗を見つける」に限定する。制約を嘆くのではなく、制約を前提に設計する。
——その発想が、「週7日稼働」の中でもB級戦4回優勝という結果につながりました。

 

宮田さんの未来——A級戦へ、そしてその先へ

B級戦(主にアマ初段〜アマ2段クラスが参加)での成果を手にした宮田さんが次に見据えるのは、アマ3段以上が参加する「A級戦」への挑戦です。
「B級では工夫で補える部分だけで成果が出た。A級に向けては、序盤の研究や一手の精度といった実力そのものを積み上げていかないといけない」と宮田さんは言います。

ここには将棋だけでなく、宮田さん自身のこれからの生き方が見えました。
工夫で乗り越えられる局面と、実力を積み上げなければならない局面。
——その二つを見極め、それぞれに適切な手を打つ。
販売士2級から1級へ、1級から中小企業診断士へと資格を積み上げてきたキャリアと、同じ構造です。

「制約は選び方の条件でもある」
セミナー後の懇親会でも、この言葉を自分の仕事に置き換えた会話があちこちのテーブルで続いていました。
本好きの少年が、倒産と転職と能登半島地震を経て、将棋と仕事と支援活動を三本柱に生きる今の宮田さんへ。
その歩みはまだ途中です。
A級戦への挑戦も、診断士としての成長も、これからが本番。そう感じさせてくれるセミナーでした。
異業種・異職種の参加者が同じ言葉で語り合えるのも、KCGならではの醍醐味です。
ぜひ次回、会場でその空気を体験してみてください。

 

懇親会

今月もセミナーの後に懇親会を行いました。その一幕をご紹介いたします。

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