2025年12月定例セミナー「生成AI時代の文章術」石川県中小企業診断士会AI研究会 長東大樹さん

2025年12月のKCG定例セミナーの講師は、石川県中小企業診断士会AI研究会会長を務める中小企業診断士の長東大樹(ちょうとう ひろき)さんです。

現在は金沢市内の企業に勤務しながら、生成AIを活用した経営支援や講演活動を精力的に展開しています。
今回は「生成AI時代の文章術」と題して、AIの仕組みから実践的な文章テクニックまで、経営者や事業担当者にとって必見の内容をお話しいただきました。

生成AIの急速な普及により、ビジネスパーソンは新たなスキルを求められています。ChatGPTやPerpelexityなどのツールは、確かに効率的です。
しかし、AIが生成した文章はどこか無難で、インパクトに欠ける場合が多いのではないでしょうか。
セミナーの核となるメッセージは、AIに任せるべき部分と、人間にしかできない部分を明確に分け、その役割分担を理解することで、初めて真の価値を持つ文章が生まれるということです。

 

AIに「癖」がある理由とは

生成AIで文章を作ると、どこか「AIっぽい」と感じることはないでしょうか。その理由は何なのでしょうか。
長東さんは、「次の単語の確率が高いものを選ぶ仕組み」だと説明されます。
具体例を挙げると、「このツール」という言葉の後に続く単語として、学習データに「素晴らしい」が8000回、「です」が300回、「月10時間削減」が5回出現していた場合、AIは統計的に確率の高い「素晴らしい」を選んでしまいます。
この仕組みが、AIの文章が常に一般的で平凡な表現に偏る根本的な原因となっています。

さらに複雑な要因も存在します。
AIは言葉を「ベクトル化」という手法を用いて、数百次元の数値で理解しています。
これにより、言葉の意味を数字で表現し、統計的に処理することが可能になります。
ただし、統計学ではデータを集めれば集めるほど平均値に寄っていく性質があります。
つまり、学習を重ねるほど、AIは統計的な平均へと引き寄せられ、個性のない表現へと収斂していきます。

さらに追い打ちをかけるのが、「温度パラメーター」という設定値です。
ChatGPTなどの多くのAIは、この値が低めに設定されているため、より平凡で無難な、リスクの少ない表現を意図的に選ぶ傾向にあります。
つまり、AIが平凡に見える理由は、その仕組みそのものに内在しています。これを理解することが、AI時代の文章術の第一歩となります。

 

AIが苦手な領域を明確にする

AIの仕組みを理解した上で、逆に「何ができないのか」を認識することは重要です。
長東さんが挙げるAIの弱点は、いくつかの明確なパターンに分かれています。

まず挙げられるのが、「個人的な経験や一人称の体験」です。
「私は〇〇という経験をした」という文は、一般的なパターンとしては学習データに少なく、確率的には極めて低い出力となります。
AIは指示されれば創作することもできますが、自発的に個人の体験を織り交ぜることは苦手な領域です。

次に「独創的なアイデアや全く新しい概念」が挙げられます。
学習データには、既に存在する知識しか含まれていないからです。
したがって、前例のない考え方や、業界の常識を覆すような視点は、AIからは自動的には生まれにくいものです。
これまでのビジネス文章で差別化を図ってきた、その「創意工夫」の部分をAIに任せるわけにはいきません。

そして重大な問題が「ハルシネーション」です。
これは、AIが「確率が高い=正しい」と錯覚し、根拠のない情報さえ信頼をもって出力してしまう現象です。
最も見た目が自然だからといって、それが真実とは限りません。
ユーザー側が常に意識する必要があります。こうした制限を理解することで、AIをより効果的に活用できるようになります。

 

GKGMメソッドで文章に厚みを出す

長東さんがKCGブログで5年間実践してきたテクニックの中で、特に強力なのが「GKGM」という手法です。
これは「現在・過去・現在・未来」の頭文字を取ったもので、日本語では少しダサく聞こえるかもしれません。
しかし、実践的な効果は絶大です。

このメソッドの流れは以下の通りです。まず「現在」で、今何をしているのかの概要を簡潔に示します。
次に「過去」に遡って、そのきっかけや背景となった出来事を説明します。
その後、再び「現在」に戻り、過去とのつながりを意識しながら、より詳しく掘り下げた情報を述べていきます。
最後に「未来」として、これからどうなっていきたいのか、どう変えていきたいのかという展望を語ります。

この4段階の構成により、文章全体に起承転結のようなストーリー性が生まれ、読み手の感情や共感度が格段に高まります。
実演例として、長東さんが講師の安藤謙輔さんのセミナー内容をGKGMで再構成されたものが紹介されました。

さらに興味深い点として、長東さんはこのGKGMが「書く」場面だけでなく、「話す」「聞く」場面でも有効であると指摘されています。
インタビューの際に「今何をしていますか」「それを始めたきっかけは」「もう一度詳しく教えてください」「今後の展開は」という順番で質問することで、相手は話しやすくなり、より深い情報が引き出されます。
このメソッドは、あらゆるコミュニケーションシーンに応用できる、実用的なフレームワークです。

 

読みやすさを実現する文章工夫

ビジネス文章のクオリティを高めるために、長東さんは3つの具体的なテクニックを紹介されました。
一見すると細かい工夫に思えるかもしれませんが、読み手の理解度や満足度に大きな影響を与えるものばかりです。

第一が、「見出しは段落を凝縮する」ということです。多くの文章では「〜について」といった抽象的で曖昧な見出しがつけられています。
しかし、KCGブログでは、見出しだけを読めば、その段落の内容がほぼ理解できるレベルの具体性を目指しています。

第二が、「逆茂木型を作らない」という工夫です。
文法用語の「レゲットの木」を意識し、長い修飾語が末尾に続いて最後に結論が来るような構造を避けるべきです。
結論を先に示し、その理由を後に述べることで、読み手の脳認知負荷が大幅に軽減されます。

第三が、「文末の表現を揺らす」ことです。
このテクニックは、AIが出力した文章に「人間らしさ」をもたらす極めて重要な工夫です。
「〜ました。〜ました。〜ました」と単調に続く文末は、リズム感を失い、読み手を飽きさせてしまいます。
過去形、現在形、体言止めなどを意識的に混ぜることで、文章全体にリズムが生まれ、読み心地が大きく改善されます。
読み手は、文末の多様性から、あたかも人間が心を込めて書いたかのような温度感を感じるようになります。

 

AI活用の実践プロセスと役割分担

最後に、実際のビジネス文章をどのようにAIと協働して作成していくか、その実践的なプロセスが紹介されました。
長東さんの経験に基づく、極めて現実的なアプローチです。

まず「骨組みを作る」段階があります。
AIに一気に全文を書かせるのではなく、まずGKGMなどの構成を指定し、見出しレベルの骨格を作らせることが重要です。
この段階では詳細を求めず、全体の流れを確定させることに注力します。
次に「具体例やデータを追加する」段階に進みます。
単なる説明だけでなく、根拠となる数字や具体的な事例を盛り込むことで、文章の信頼性が格段に高まります。
AIが出力した一般的な説明に、人間が具体的な情報を追加することで、説得力のある文章へと進化させていきます。

最後に「表現やトーンの調整」が行われます。文の長さを調整したり、文末の表現を揺らしたり、冗長な部分を削ったりして、AIの出力を人間が心を込めて書いた文章へと変えます。この最終調整が、AIから「その先」へ行くための、最も大事なステップです。特に重要な工夫として、小見出しをしっかり吟味してからその見出しに合う文章を作らせることで、大幅なブレを防ぐことができます。

人間とAIの役割分担は明確です。AIが得意なのは、スピード、大量処理、一般的で平均的な表現です。
一方、人間にしかできないのは、一次情報の収集、身体性を伴う体験の記述、責任と倫理観の判断、温度感のある表現、ストーリー性と共感性の創出です。
AI時代の文章術とは、この役割分担を理解し、人間が得意な部分に自分の労力を集中させることで、初めて真の価値を持つビジネス文章が生まれるということを認識することです。

生成AIは確かに強力なツールです。
しかし、その特性を理解し、人間らしさを意図的に加えることでのみ、本当に読み手の心に届く文章が実現します。
長東さんのセミナーは、デジタル化の時代における「書く力」の本質を改めて考えさせてくれる、極めて示唆に富んだ内容となりました。
文末の工夫を通じて実感されるリズム感——それが、AI時代における文章の生命力です。

 

 

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