2024年12月定例セミナー「商品ではなく、 人で選ばれる会社を目指して」 浜田紙業株式会社 専務取締役 浜田浩史

2024年12月のKCG定例セミナー講師は、浜田紙業株式会社で専務取締役を務めている浜田浩史(はまだ ひろし)さんです。
浜田さんは、1950年創業の老舗紙問屋である同社において、ティッシュペーパーやトイレットペーパーなどの家庭紙から
印刷用紙、包装紙まで、幅広い紙製品を取り扱う事業を展開しています。
約10名の従業員とともに、デジタル時代に即した新しい商いの形を実践。
顧客との関係性構築に重点を置き、従来の価格競争から脱却して、人としての対応で価値創造を追求しています。
今回は、具体的な取り組み内容だけでなく、その考え方についてもお話しいただきました。
なお、サポート役として中小企業診断士の遠田幹雄さんにもご協力いただきました。

 

教員から紙問屋へ – 転機となった出会い

浜田紙業株式会社は浜田さんの祖父が事業を始め、今年で創業74年の老舗企業です。
ですが、浜田さんは特別支援学校で7年間教員として神奈川県に勤務していました。
30歳を前に、遠く離れた神奈川県で一生を過ごすことへの迷いが生じ始めます。
そんな中、結婚し子供も生まれたことをきっかけに、2018年に家業を継ぐ決意をします。
そして同年12月、金沢商工会議所のセミナーで出会ったの講師は、今回のセミナーでサポートを務める遠田さんでした。
その出会いが、その後の経営革新の大きなきっかけとなりました。
遠田さんがかけた言葉は「なんでもやってみていいんじゃないですか」。
この言葉に背中を押され、浜田さんは新たな挑戦への一歩を踏み出すことになります。

 

デジタル化への第一歩

2019年3月、ウェブ集客への挑戦が始まりました。まずはネット通販サイトへの出店からスタート。
大手メーカーのティッシュやトイレットペーパーを扱い、1円でも安く、より早く出荷することで売上を伸ばしていきます。
利益は多くありませんでしたが、社内の意識が「ネットですごい回るんだね」と変化し始めました。
そして最も衝撃を受けたのは、大手企業から、景品用のティッシュ供給の相談が来たことです。
当時は在庫不足で対応できませんでしたが、金沢の一企業がわざわざ大手企業の本社に行かなくても、
ネットを通じて大手企業と取引できる可能性を実感する出来事となりました。
2020年、コロナ禍での紙不足デマ騒動時には「ティッシュ品薄」というブログ記事が検索エンジンで上位表示され、1日のアクセスは4万件を記録。
このときには、大量の問い合わせと注文が殺到しました。
しかし、この一時的な売上急増は、次の課題を浮き彫りにすることになります。
予想通り、さっぱりリピートが来ません。この経験が後のリピーター戦略への転換点となったのです。

 

リピーター戦略への転換

デマ騒動時の新規顧客2000件以上の獲得は、一時的な売上急増をもたらしましたが、その後のリピート率はゼロという厳しい現実に直面します。
あるお客様から「ダンボールに入ったティッシュを買ったことは覚えているけれど、どこで買ったか忘れてしまった。送り状を見て御社だとわかった」という電話をいただいた時、大きな気づきがあったと浜田さんは言います。
そこで始めたのが、3週間で3回の接触を行う取り組みです。
商品購入時の自己紹介、10日後のお礼メール、20日後の会社案内の送付という一連のコミュニケーションを実践。
この活動を通じて、お客様との関係性構築に重点を置くようになりました。
特に注力したのは、デジタルではなく人の手による丁寧なフォローです。
AIやデジタル技術は見込み新規客の獲得に活用し、既存顧客には人にしかできない温かみのある対応を心がけました。
その結果、徐々にリピート率が向上し、安定的な経営基盤の構築につながっていきます。

 

人としての対応がもたらす価値の創造

現在、デジタル時代の真っただ中にあって、請求書への一言添付や定期的なニュースレターの送付など、人としての温かみのある対応を実践しています。
電子化が進む中でも、あえて手書きのメッセージを添えることで、お客様との関係性が着実に深まっていきました。
特に印象的だったのは、ある葬儀会社の担当者からいただいた声です。
「組織の方々に商品をお配りする際、手書きのお手紙や時々届くお便りも楽しく拝見しています。
段ボール箱がしっかりしており、解体もしやすくて助かります」という言葉をいただきました。
実は、商品の品質や配送の速さは以前と変わっていません。
しかし、人としての丁寧な対応を続けることで、お客様の受け止め方が大きく変化しました。
その結果、「値段はいいから安定供給よろしく」という言葉をいただけるまでの信頼関係を構築することができたそうです。
物があふれる時代だからこそ、人としての対応による付加価値の創造が、ビジネスの新しい可能性を開いていくのだと浜田さんは実感しています。

 

関わる人すべての幸せを目指して

商品販売はあくまで手段であり、目的は関わるすべての人の幸せにあるという経営理念のもと、
価格競争ではなく、価値創造による差別化を浜田さんは追求しています。
物があふれる時代だからこそ、人としての対応による付加価値の創造を目指しています。
内閣府の調査によると、平成元年から「心の豊かさ」や「精神的充実」を求める傾向が年々強まっています。
かつては「いい車」「いい家」など物質的な豊かさを求める時代でしたが、今はそれらがどの家庭にもある時代。
そんな中で、大手企業との価格競争ではなく、人にフォーカスした顧客との価値を高める戦略がますます重要になっていると言えます。
中小企業は「1円でも安く」という戦略ではなく、「あの会社から買いたい」と思ってもらえる存在になることが生き残りの道です。
デジタル化が進む一方で、人としての温かみのある対応がより一層求められる時代。
これからも「商品は手段であり、目的は人の幸せ」という考え方を軸に、関わるすべての人の幸せを浜田さんは追求していくことでしょう。

 

懇親会

今月も、会場で懇親会を行いました。その一幕をご紹介いたします。
なお、今月は12月ということでクリスマスのプレゼント交換会も行いました。

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